麻酔処置について

麻酔処置の3つの方針

 犬や猫の手術では多くの場合、全身麻酔が必要となります。手術で起こる強い痛みや身体的な負担を軽減するためには麻酔は不可欠ですが、多くの飼い主様は動物に麻酔をかけることに抵抗感があるかと思います。

 プリモ動物病院練馬では以下の3つを麻酔処置の方針とし、動物の痛みのケアと安全で安心できる手術を行うための対応を心がけております。

  • 1より安全で安心できる麻酔
    麻酔のリスクを正しく判断し、的確な麻酔を行います。
  • 2より痛みの少ない手術
    手術前・手術中・手術後に絶え間ない痛みのケアを行います。
  • 3より早い手術からの回復
    手術からの回復を促進するためのケアを行います。

1. より安全で安心できる麻酔

 動物の麻酔の際に最も重要なことは動物の安全を守ることです。しかし、残念ながら、現時点では”100%安全な麻酔”は存在しません。動物では健康なわんちゃんで0.05%(2000頭に1頭)、ねこちゃんで0.1%(1000頭に1頭)の確率で麻酔事故が起こっています(David et al. 2008)。
そこで、私たちは麻酔事故の発生率を少しでも0%に近づけるために様々な検査・対応を行っています。

【術前検査と麻酔方法の検討】
 術前検査を行い、動物がどのような状態にあるかを正確に把握し、その結果に基づいてベストな麻酔方法を選択します。多くの症例では吸入麻酔薬による麻酔を行いますが、場合によってはTIVA(Total Intravenous anesthesia:全静脈麻酔)や、吸入麻酔と静脈麻酔の併用を行います。

【手術中のモニタリング】
 最新の機器と獣医師が聴診・触診を行うことで、10以上のバイタルサインをチェックしています。モニタリングを行うことで、手術中に起こる様々な変化に迅速に対応できるように備えています。

2. より痛みの少ない手術

【動物にも痛みのケアを】
 動物も手術によって痛みを感じています。“痛み”の存在は動物が手術から回復することを妨げます。動物にとって負担が少なくなるように、動物が手術から早く回復するために手術前・手術中・手術後にしっかりと痛みのケアを行うことが重要です。また、手術中に痛みのケアを行うことでより安全で安心できる麻酔を行うことができます。

【痛みのコントロールのポイント】
①マルチモーダル鎮痛
 動物が“痛い“と感じるには、
①痛みの刺激→②痛みの伝達 →③痛みの増幅→④痛みの認知という、4つのステップがあります。このステップそれぞれに対して鎮痛薬を用いることで、より効果的に痛みをケアすることができます。

②先取り鎮痛
 動物が痛みを感じ続けると、痛覚過敏・アロディニアという状態になり、痛みが増幅されます。痛覚過敏とは、痛みを感じ続けると同じ刺激でもより痛い、痛みに対して過敏状態になることを言います。一方アロディニアとは、痛みを感じないような刺激でも痛みを感じてしまう状態になることを言います。この痛覚過敏・アロディニアという状態を避けるためには、痛みを感じる前、つまり手術前から痛みのケアを行うことが重要です。

【プリモ動物病院練馬の鎮痛プログラム】
 プリモ動物病院練馬では、動物に痛みのない手術を目指すため、以下のことを実施しています。
☆手術前から痛みのケアを開始し、痛みを事前に防ぎます。
☆複数の薬を用いて痛みのケアを行います。
 また、より効果の高い、麻薬性鎮痛薬を使用するための免許を獣医師全員が取得しています。(詳細は病院スタッフまでお問い合わせください)

3. より早い手術からの回復

 手術を正確に・素早く行うことはもちろん、手術からの回復を早めるためにも注意を払います。

迅速な覚醒】
 手術が終わり次第、可能な限りスムーズな覚醒が出来るように心がけます。手術中の麻酔薬の投与量を調整し、麻酔時間が長くならないようにします。

【手術前・手術中・手術後の静脈点滴】
 体液バランスを評価し、静脈点滴を行って脱水や電解質の補正を行い、体液バランスを整えて手術に臨みます。手術終了後には、手術によって消費したエネルギーや電解質を補充し、手術からの回復を促進します。

【手術後の痛みのケア】
 手術後の強い痛みは術後12-24時間にピークを迎え、術後48時間まで続きます。手術中のみならず、手術後の痛みのケアを行うことで、手術からの回復を早めます。

麻酔・手術の流れ

より安全で安心できる麻酔・手術

 プリモ動物病院練馬では、動物にとって安全で優しい手術を行うために、1頭1頭にそれぞれの麻酔・手術計画を立てています。
安全で確実な手術を行うことはもちろん、さらには動物の負担を最小限になるよう、痛みのケアや術後の回復を早めるためのケアも十分に行っています。

一般的な麻酔・手術の流れ

①術前検査、および麻酔・手術計画の作成
 麻酔・手術にあたってのリスク要因がないかどうか、あるのであれば、どの程度なのかを調べ、その問題点にどのように対処するか検討します。
 当院ではすべての動物に、術前検査として一般身体検査(問診・視診・触診・聴診など)、血液検査、胸部レントゲン検査を実施しています。また、これまでに心臓や腎臓、肝臓などに問題があった場合は超音波検査や腹部レントゲン検査を行い、血液検査と合わせて各種臓器の状態を確認します。

 麻酔リスクはASA分類という分類法に基づき、I~Vに分類され、そのリスクに応じて使う薬剤や麻酔方法を決定します。痛みの強さは先取りスコアシステムに基づいてあらかじめ推測し、必要と思われる痛みのケアとその方法を検討し、実施します。

②術前処置
 手術前には血液検査の結果に応じて点滴を行い、目に見えない脱水まで十分に補正し、手術を行います。また、手術時の感染を防ぐために抗生物質を投与したり、効果を得るまでに時間のかかる鎮痛薬などを事前に投与したりします。

③麻酔導入
 麻酔をスムーズに行うため、鎮静薬などを用いて動物が落ち着いた状態になってから、麻酔を開始します。麻酔開始時には作用する時間の短い静脈麻酔薬を用いて、意識を消失させ、気管チューブを挿入し、呼吸ルートをしっかりと確保します。

④麻酔維持・手術
 長時間の麻酔の場合、人医療でも用いられる安全性の高いガス麻酔で手術を進めます。状況に応じて鎮痛薬を持続定量点滴(CRI)し、絶え間ない痛みのケアを行います。また、痛みのケアを十分に行うことは麻酔薬の量を減らすことにつながり、麻酔の安全性を高めることができます。手術中は心拍数や血圧、体温、呼吸数などをモニターで常に監視し、異常があれば即座に対応しています。

⑤覚醒
 手術が終了し、麻酔から覚めることを覚醒と呼びます。動物は麻酔からの覚醒とともに痛みを感じ、周囲の状況が異なること、見慣れない人に囲まれていることを理解し、痛みや不安を感じ始めます。手術中~手術終了時にしっかりとした痛みのケアを行うことで、動物の痛みや不安をケアすることができ、穏やかに覚醒することができます。

⑥術後管理
 手術後にもこまめなケアを行い、なるべく早期退院ができるよう入院管理を行っております。手術後3時間までは全身的な炎症反応や血液循環の変動など、体内では手術に対する様々な反応が大きく起こります。手術後にも痛みのケア、点滴による血液循環のケアを行うことで、術後の回復を促進することができます。また、重症患者については深夜でもスタッフの宿直によるケアを行っています。

痛みのケアについて

 動物は麻酔によって意識を失っていても、痛みを感じています。この手術中に生じる痛みは麻酔から覚めると、強い痛みとして現れます。痛みは動物が手術の影響から回復するのを妨げることが研究でもわかっています。動物にとって負担が少なくなるように、動物が手術から早く回復するために手術前・手術中・手術後にしっかりと痛みのケアを行うことが重要です。

痛みのケアの考え方

 麻酔処置についてのページでも紹介しておりますが、痛みのケアの考え方で大切なことは2つあります。

①マルチモーダル鎮痛
 動物が“痛い“と感じるには、①痛みの刺激(痛みの受容器)→②痛みの伝達(末梢神経)→③痛みの増幅(末梢神経・脊髄)→④痛みの認知(脊髄。脳)という、4つのステップがあります。このステップそれぞれに対して鎮痛薬を用いることで、より効果的に痛みをケアすることができます。また、様々なステップで痛みのケアを行うことによって、一つの薬剤を多量に用いた痛みのケアよりも副作用を抑えることができます。

②先取り鎮痛
 あらかじめ、生じる痛みの程度を推定し、鎮痛剤を手術前に投与することで、痛みによる有害な反応を抑えることができます。また、痛みの程度を先取りスコアシステムによって事前に評価して、手術時の痛みのケアがどの程度必要か、どのような方法が適しているかを検討します。

痛みのケアの方法

 痛みのケアにも様々な方法があります。

①鎮痛薬の注射
 最も一般的な方法で、薬剤を皮下や筋肉、静脈内に注射することによって鎮痛薬を投与します。

②鎮痛薬の持続定量点滴(CRI)
 微量点滴器を用いて、正確に一定速度で鎮痛薬を投与します。痛みの状況に応じて投与量を細かく調節できるため、痛みの強い手術では常用しています。

③硬膜外鎮痛
 脊髄の外側の硬膜外腔の部分に麻酔・鎮痛薬を投与することによって脊髄での痛みの伝達・痛みの増幅を抑制することができます。
 脊髄に直接薬を届けることが可能であり、全身に注射するよりも少ない薬の量で痛みのコントロールができるため、副作用が低減できます。

④局所神経ブロック
 手術を行うその部分の神経に直接麻酔薬を投与することにより、痛みの伝達をしっかりと防ぐことができます。
 神経刺激装置や超音波診断装置を用いて、神経の部位を確認して局所麻酔薬を注射します。手術で痛みを感じる可能性のある部分の神経だけを麻酔するため、手術後の回復が非常に早い方法です。

⑤飲み薬による鎮痛
 手術・退院後、長期間にわたって痛みのコントロールが必要な場合、飲み薬による痛みのケアを行います。
 関節などの痛みのケアには非ステロイド系鎮痛薬(NSAIDs)、神経性の痛みのケアのためにはガバペンチンといった内服薬を用いて長期間のケアを行います。

当院で利用している鎮痛薬の例

非ステロイド系鎮痛薬:ロベナコキシブ、メロキシカム
局所麻酔薬:リドカイン、ブピバカイン
オピオイド:フェンタニル、ブトルファノール、ブブレノルフィン
α2作動薬:メデトミジン
NMDA受容体拮抗薬:ケタミン
そのほかの鎮痛補助薬:トラマドール、ガバペンチン



 プリモ動物病院練馬では、これらの鎮痛方法を組み合わせ、その動物に合わせた最適な鎮痛方法を用いて、より安全な手術、そして痛みの少ない動物に優しい手術を実施しています。

年中無休 午前診療/9:00~12:00 午後診療/13:00~19:00
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